ただいま発売中のフィガロジャポンの「やっぱり大好き、おいしいチャイナ」という東京の素敵なチャイニーズレストラン特集がありまして、その最後に、香港の最先端情報をちょこっと書きました!
担当編集者の方が中国料理全般にとっても詳しい(香港通・・・・・・私のブログにもよく登場されてますよ! 最近では天香樓とか)ので、四大料理の説明とか、点心の種類など渾身の内容になっています。
とりあげたのは、リトルバオやセカンドドラフトが大人気で、先日はアジアベスト女性シェフに選ばれたりして、とにかく大活躍のメイさんの新店、Happy Paradiseと、大人気が続くモダンなチャイニーズ、口利福。二人に久々にじっくりインタビューして、立て板に水のごとく、広東料理の伝統に革新を取り入れる上でのバランスや香港への思いを明晰に語ってくれるその様子からして、ああ、やっぱり二人は新世代のチャイニーズシェフ筆頭だな、と感動しました。
相当早い時期に取材したので、Happy Paradiseは撮影した一品しかまだ食べていませんが、これがもう。久し振りに、かぶりついて理性をなくし食べ尽くす、野生モードにスイッチが入る美味しさでした。
記事ではあまりスペースがなくて詳しくかけなかったのが、このハッピーパラダイスのコンセプトを。
これがバーカウンター。「え?これが広東料理店???」と思わされる、ぶっ飛んでキッチュでファンキーな雰囲気。そして出てくる料理は、古い広東料理に新しい調理技術を加えた進化形。メイさんの言葉をそのまま使うと「大班楼がBelonと出会った」。両方大好きな店なので、これはもうツボに間違いありません。
このインテリアと料理の奇抜ともいえる組み合わせ。近年の大活躍で知名度が上がった今だからできる冒険で、バーテンダー、シェフ、デザイナーなど感覚の合うクリエイターが集まってくれて、彼女のやりたいことをしっかり網羅しているそうです。
ちなみに私を野生に戻した料理(笑)、黄酒鶏。写真は自分で撮っていないので、ぜひ記事を見ていただきたいのですが、基本の伝統料理は、このフィガロブログ(アジアベスト女性シェフが腕を振るった「盆菜」を味わい尽くす)に前書いた、盆菜のときに、元朗屏山村の伝統メニューで、たっぷりの酒粕の下に鶏が隠れている一品があり、それにインスピレーションを受けたそう。
しかし、そこに真空調理などの西洋の技術を加えて、鶏の部位によって温度を変えて最高の味を引き出すという工夫をしています。
ああ、早くしっかりここで食べたい・・・・・・
そして口利福! 2014年のオープン直後にシェフのジュエットさんにインタビューして以来、しっかりと話す機会がなかったので、その後どんな風に進化しているのか、どう考え方が変わったりしているのかをうかがいたくて、インタビューを申し込みました。
なぜか取材場所は同じBlacksheep Groupがやっていて、元は口利福にいたバオ・シェフが率いているLe Garcon Saigonに来てね(ジュエットさんはバオさんと大の仲良しで、よく手伝っているんです)とのことで、こんな記念写真も。たばこを吸う不良の鳩がお気に入りなんだそうです(笑)
ジュエットさんにも面白い話をたくさん聞きました!
中でもなるほど、と思ったのは、「広東料理の中でも、焼味系のものは完成されていて、何もいじる必要がない」。ひねった今風の料理専門と見られていた彼の豉油雞が、伝統の味を守った素晴らしい美味しさなことは、彼の評価をますます高めたと思います。
先日22 Shipsの記事のために取材した、ジェイソン・アサートンさんも、香港でのお気に入りレストランは口利福とリトルバオだそうで、やっぱり目利きには彼らのシェフとしての考え方や、リスクを恐れない確固たる姿勢が見えるんですね。
ものすごく偶然だったのが、この数日前に、Amberのリチャード・エッケバスさんとシドニーのSepiaのマーティン・ベルさんのフォーハンズディナーの取材をしていて、マーティンさんが長年Tetsuya’sでヘッドシェフをしていて、ジュエットさんはマーティンさんの下でシェフとして働いていたという話を聞いていたこと。Sepiaを紹介するブログ(「フォーハンズ」大流行中!AmberがシドニーのSepiaと競演)にそれを書いていました。
そしてこの日、まさに、ジュエットさんがどのように斬新なメニューを、広東料理、フレンチ、日本料理の基礎を身につけた頭で組み立てるのかという例として、数日前にメニューに掲載したばかりの、ホタテ貝の料理の話がでました。
これはどうしても紹介したい、と思い、「今日、ハッピーパラダイスで料理撮影をするんだけど、その後、できたら口利福でその料理の写真撮らせて!」と、無理なお願いをジュエットさんにしたら、即座に快諾。こういう風に、こちらが熱意をもって接すると、柔軟に対応してくれるシェフ、大好きです。
とはいえ、カジュアルな構えとは言え、毎日行列ができることで有名な口利福の大混雑の時間帯に、店の隅っこで照明を立てて撮影までさせてくれたことに改めて大感謝しています。
左は真っ暗ですが、店の隅で撮影中の風景。右は、合間に撮影用のカクテルを、名物の金の招き猫に無理強いする私(笑)。私の酒が飲めねーのかーってw
伝統をリスペクトしながら、新しい食材や調理法を取り入れるには、基礎がしっかりした上でのバランス感覚がものを言う、とお話してくれたジュエットさん。
先日、まったく違うところで、見事にその言葉がシンクロしたのです。
ライターとしてではなく、通訳として、ときどきWynn MacauのMizumiのお手伝いをしています。札幌のすし善の嶋宮勤さんが、こちらの店のコンサルティングをしていて、先日1年ぶりに、香港とマカオのメディアの嶋宮さんへのインタビューの通訳をお手伝いしました。
前回お会いしたときにも聞いて感動したセリフが今回も聞けました。
「伝統に固執しすぎると、伝統が膠着してダメになってしまう。時代が変われば人も変わるし、手に入る食材も変わる。それでも伝統をきちんと理解していれば、革新を加えることで、伝統を守って行くことができる。伝統は革新があればこそ、続いていくことができるんです」
寿司の世界と広東料理の世界でも、70歳を超える名人でも若きシェフでも、同じ考えに至るんだ、と気づいて鳥肌が立ちました。
インタビューが終わったので、香港に帰ろうというところで「えーもう帰っちゃうのー?」と見送って下さった嶋宮さん。偉い方なのに、いつも優しくて面白くて頭が柔軟なんです! 何歳になっても革新が続けられる精神を見習いたいと思わされる、素晴らしいロールモデルです。
かっこいい若いシェフたちだけじゃなく、広東料理界でも、超ベテランのシェフは、新しい食材を使ったり、調理法を考えたりすることにとても熱心です。ワンハーバーロードの李シェフ、天龍軒のラウシェフ、唐閣のコンシェフなど、活躍しているシェフたちはみな、インタビューで料理の話をすると止まらないし、最新の店を食べ歩いたり、ネットで食材のサーチをしたりしながら、革新を常に続けているのです。
今回のフィガロの記事は短いものですが、取材中、とても色々考えさせられ、今の香港の広東料理についても頭が整理されました。よかったらぜひ本誌もご覧下さい!