「香港ときどき公立病院(3)」説明無しでも生き抜く力が大切(笑)

さて、前回は病院内での見事な伝達に感動した一方で、完全に犠牲にされている一面に気づきました。

それは「説明」。もちろん医療面の説明は詳しくしてくれるものの、「今から何をする」というような簡単な説明はすべて省略。

公立病院の最大の短所、と言えば間違いなく食事です(これはまた次回、じっくりお話いたします)。そして、それとはまた異なる短所なのが、この「説明の無さ」なのかもしれません。結果的には治療をちゃんとやってくれるので、文句はないのですが、その場では「ええ?あれあれ?何が起きてるの?もしかして忘れられてないか?」となって心許ない気分を何度も味わいました。

後から思えば笑い話なものの、これがもしかして公立病院に外国人がかかる上での難関かもしれません。

ええ?ティッシュ持って来なかったの?(ギロリ)の巻

たとえば。日本だったら入院前に「これとこれを自宅から持ってきて下さい」と説明してくれるとか、簡単なリストでもくれるんじゃないかなーと思うのですが、「入院のとき、持ってくるもののリストとかありますか?」と診察時に看護婦さんに聞いても「ない(終わり)」。

そうか、まあいいや、とにかく必要そうなものを、と試行錯誤しつつバッグに入れて入院したわけですが。




実は必携品だったのが「箱形のティッシュ」。すべての入院患者さんのところにティッシュが置いてありました。そしてドクターや看護婦さん、理学療法士さんが来たときに、「これこれこういうときは、こうやって、そしてティッシュを使って拭いて下さい」と言うので、「ティッシュ持ってこなかったんですけど」と言ったとき、皆さんここぞとばかり「うそだろ? ティッシュ持ってきてないだと?」って顔してドン引きするんですよ! いつも優しいのに、突然人間じゃない者を見るような冷たい目に豹変するんです。な、な、な、なんでー???

その日、家族が見舞いにきたとき、私の第一声はもちろん「ティッシュ買ってきて~!!」。病院内のコンビニで山のように買ってきてもらったティッシュ、未だ無くならず家で使っております。

Fast and Furious! 車椅子ドリフト by オバチャン

説明が無かったために思わぬスリルとサスペンスも味わいました。

手術後数日経って、お腹が固く張ってしまってる気がすると、ちらりと看護婦さんに伝えた朝。その日の午後に、誰かが病室の入り口で「こっちこい」と手で招いている。え?行くの?そこへ?とヨタヨタ歩いて行くと(まだ歩けるようになったばかり)、車椅子が置いてあって、まあ座れと。ええ?座るの?と座った途端に、バリバリローカルなオバチャンが超高速で車椅子を押し始めたかと思うと、病棟の扉を駆け抜けて行きます。

なになになに?どこ行くの?なんで?病棟替わるの?

英語が通じなさそうだったので、かろうじて「びんどー???どこ行くの?」とはちゃめちゃな広東語で訪ねると答えは「2階」。だから2階で何すんの?と思いましたが、まあ諦めてなすがまま。

毎日これをやっているらしいオバチャンはスピード狂で、「シ、シートベルトしたい」と冷や汗かいている間に、突然前にゴミのワゴン押してるオジサンが通り過ぎそうになってギリギリに避けたり(おいおい、気をつけなさいよ、わっはっはとオバチャン笑ってるし)、障害物が次々と現れ、あまりのスリルとサスペンスに肘掛けをぐっと握りしめながら「万が一転倒した場合は、やはり片手はお腹の傷を守って、胎児の姿勢を取って、もう一本の手は頭をカバーだろうか」などと思わずシミュレーションをしてしまう私。

同時に、何日かぶりでエレベーターに乗って、病棟以外の世界を見た解放感も覚え始めました(頭の中にはThe whole new world~♪と歌が鳴り響き、笑)。

さて。相変わらずの高速移動で辿り着いた先は、入院患者用のレントゲン室でした。ベッドに寝たまま運ばれている人もいるものの、ほとんどが私と同じ車椅子。順番を待つ列の最後尾に、ほとんど減速せずにドリフトして突っ込むオバチャンの運転テク(笑)。あーそういうことだったのね、とやっと納得。

ここにはまたすごいレントゲン設備があって、私はスチール製の大きなベッドのようなところに寝させられて、上から撮影をされました。

私のお腹の張りの原因を調べるためだったそうです。「レントゲン行くよ♪」って一言だけ言ってくれればオタオタしないのにぃ(笑)。

とは言え、思わぬ冒険にアドレナリンが出て、気分転換にはなりましたっけ。




心許ないのは香港人も同じらしい・・・・・・

いろいろとワケが分からなくて不安に陥るのは、私が外国人で病院事情が分からず、広東語もよく分からないからだろうか、と思うのが自然ではありますが、どうもワケが分からないのは公立病院慣れしていない香港人も同じなんだと気が付く出来事がありました。

入院の前々日、いわゆる手術前検査で日帰り入院という日がありました。前日深夜から絶食、朝から絶飲で8時に受付を済ませると、病院パジャマを渡されて着替えさせられました。

チェックのパジャマはマークス&スペンサー。元はネル地らしいものの、洗いすぎてゴワゴワで紙みたい(笑)。老若男女問わず、これを着ている人は患者、と分かりやすいようです。中にはまるで普通のシャツのように、その上からバッグを斜め掛けにして、チノパン履いて、着こなしている男性がちらほら。

そこで待ってなさい、と言われて、固い待合椅子に座っていると、そこに血液検査や血圧検査、尿検査など、ちょこちょこと担当者がやって来ます。一緒に来た夫も、これは流れ作業でどんどん終わるんだろうと思って会社に行ってしまいました。

別の階でレントゲン撮って来て、この後は理学療法士さんの説明とドクターの診察があるから、それが終わったらすべて終了、と言われたので、ああ、お昼ぐらいには終わるのかなーと軽く考えていました。

しかしその後。固くて冷たい椅子の上に座って、待てど暮らせど、次の呼び出しがない。気が付けばランチの時間になって、入院患者さんたちは、運ばれてきた病院食を食べています。この時点で、全部終わったら外で何か美味しいものを食べようとしか思っていなかったのです。

すると横に座っていた香港人女性から「あなた日本人?」と話しかけられました。彼女は付き添いで、「私の姉は昨日から24時間絶食していて、それでずっと待たされてほったらかしにされているのよ、いったいここはどうなってるの? ワケが分からないわ」とご立腹。見ると、明らかに弱り切ったお姉さんが隣にいました。

彼女は広東語で看護婦さんに話しかけていたりするんですが、どうも埒があかないらしい。あ、外国人じゃなくても勝手が分からなくて困るんだ、とここで納得。しかも彼女はなぜか私に色々聞いてくるんですよ。聞く相手が違うだろうーと不思議になりました。

そうこうしているうちに14時頃。絶飲絶食していますから、だんだんフラフラして来るし、自分がすでに絶食を止めていい段階なのかも分からない。すっかりぐったりしていると、食事を運んでいたオバチャンが私に気づいて「シックファン?ご飯食べる?」と聞いている。え?私も食べていいの?それ私の?と戸惑いながら、ええい、食べてしまえとオバチャンに従って、食事用のテーブルに行って、初の病院食を体験。

うーん(笑)魚料理が生煮えっぽくて、「これでお腹壊したりしないのかな」と心配しながら、無理矢理食べました(基本味付けは無し)。しかしこれでも、その後体験したものよりずいぶんマシなメニューだったことには、まだ気づいていませんでした・・・・・・。

その後もひたすら次の呼び出しを待ち続けているうちに、体は冷房で冷えきって、お尻は痛いし、疲労困憊、何だか寒気がしてきて「まずい、手術を受ける前だと言うのに、せっかく良かった体調をここで崩して熱でも出したらばかばかしい」という疑問が湧いて来ました。

ちょっと頑張らなくっちゃと戦闘モードにスイッチが入って、ナースステーション(といってもみんな出払っていて人がいない)のようなところに行って、「ここでずっと待っていたら、疲れて調子が悪くなってきたんだけど、もうちょっと休める場所はないですか?」とたまたまいた看護婦さんに聞いてみました。

周りには移動式ベッドに寝ている患者さんもチラホラ。でも私は基本的に元気だったし、自分があれに寝るという発想はまだありませんでした。せめてもう少し柔らかいソファにでも座れたらな、ぐらいの気持ちだったのです。

「あなたはまだお医者さんに会ってサインもらってないから、入院患者じゃないので、ベッドは使えない、とにかくお医者さんに会うのを待ってて」と言い捨てられて、呆然! だいたいすでに3時間ぐらいお医者さんを待っていて、いつになったらいったい来るのかも定かでは無い。

これはどうしようもない、ここで待つしかないのかと、ほとんど半泣きになって椅子の上で丸まって体を温めていたら、看護婦さんではなくて雑用係のオバチャンが通りかかり、私の様子を見て「ベッドに寝る?寝る?」と聞いてくる!

「寝る寝る寝る寝る」!

迷わずオバチャンに着いていくと、隅の方にあった移動式ベッドをきれいにして、使わせてくれました。オバチャンありがとう~! そこで2時間ぐらい爆睡して、すっかり元気になりました(つまり、まだまだお医者さんの順番は来ていなかったということ)。

ほとんど写真が無い中、このベッドを獲得した喜びの瞬間の写真を発見! 患者服もばっちり着用(笑)。

起きてから、ついにお医者さんが来て、その後は理学療法士が来て、まだこれがある、あれがある、と待たされ・・・・・・。結局、すべて終わったのは20:00!もう完全にヨレヨレで、この日はタクシーで帰りました。

入院してから、ずっとこんな調子だったらどうしよう、と不安になったものの、入院してからはもっと至れり尽くせりでした。患者のプライオリティ付けがとてもはっきりしていて、ひとたびしっかり扱うべき入院患者という立場になれば、徹底的に気に掛けてくれますが、そうでない段階では、ほとんど放置ということなんでしょうかねー。

あとは付き添いなしで来ている患者というのは、ほとんどいないので、その日の私のように患者本人がオタオタさせられることはあまり考えられていないみたいです。

そして結論。病院では、下働き的なオバチャンの権力が意外に強い(決まり事も、気分次第でさらっと無視して親切にしてくれる)! おかげで何度も救われました。

まだまだ「香港ときどき公立病院」シリーズは続きます♪




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