「香港ときどき公立病院(2)」マンモス病院が切り捨てること、守ること

手術から1ヶ月が経ち、かなり普通に戻りつつあるところで、ちょっと風邪を引いてしまって足踏み状態です。とは言え、スローペースながら、ちょこちょこ原稿も書いたりもしています(まもなくアップされるものもいくつかあるのでご紹介しますねー)。

私の病院体験記、先日日本から来たお友達を前にしてさんざん話したら、とても受けまして(笑)、珍しい話だから、面白いのかな?と、忘れる前にもう少し書いて置こうと思います。




病院まで往復3時間、中に入ったらアドベンチャーゲーム

さて。前回もお話したように、私がお世話になったのは、香港中文大学付属のプリンスオブウェールズ病院。自宅から1時間半もかかるものの、消化器系腫瘍の権威がいて大手術にもきちんと対応できるとのことで、選んで正解でした。

とはいえ入院前に、例えば「もしもし~?この前、スキャンの結果を家に持って帰ったでしょ。来週月曜日にあなたの手術に関するミーティングがあるから、その前に何人かの先生で見ておきたくて、やっぱり今日持ってきて」と先生から電話があれば、もう持っていくしかないですよね。あまり遠くに住んでいる患者さんがいないらしくて、わりと気軽に呼び出されるんです(涙)

行って帰って3時間。「尿検査のサンプル、4日分、毎日提出して」と言われれば、はい、また行って帰って3時間・・・・・・ということで、病院の近くに引っ越したい~と一時は思いました。なんだかんだと入院前から、検査のためにずいぶん時間と体力が削られていましたっけ。

そして病院についてからもまた、歩くんです。この病院本当に巨大。さらに、部門ごとに完全な縦割りになっていて、一つの部門に他の部門の場所を聞いても「それは食堂のあっちかなあ」と職員食堂を中心にした、ぼんやりした位置ぐらいしか教えてくれません(笑)。

館内に病院の模型がありました。左右の高層ビルの辺りを除いて、ぜーんぶ同じ病院なんですよ。ハーバーシティより大きいんじゃないでしょうか。

先日はまた久しぶりに、この縦割りの洗礼を浴びました。尿検査の提出場所(病理学何とか部門)に行ったら「これ1本だけ容器が違う。もらったところの看護婦さんに、正しいのもらって入れ直して来て」

えー、なんでここに正しい空容器がないの??? ちょっとだけ違ったっていいじゃない、でもここにはなくて、とにかくダメらしい。

その後15分歩いてもらった部門へ、そうしたらその日は部門が開いていなくて、もらえる先を探してまた15分歩き。やっと容器を手に入れて提出場所に戻るのにまた15分……建物は増築に増築を重ねたような迷宮的なつながり方をしていて、常にアドベンチャーゲームと借り物競走の選手の気分で、忍耐と方向感覚と動物的勘を試されます。

あちこちたらい回しにされたりしているうちに、気が付いたら病院に行って帰ってきたら1万歩歩いていたなんて日も。病院に行くにもほんと体力が必要です(笑)。

もうかなり病院内の地理を把握したので、いつでもコーディネーターになってメディアの案内とか出来そう(需要ない、笑)。

マンモス病院の恐るべき伝達マジック!

しかしこんなに縦割りで、はちゃめちゃなように思えるのに、すごいところはすごい。私が声を大にして言いたい、いちばん「すごいな、香港の大学病院」と思ったことはと言うと。

とにかくマンモス病院で、患者さんも星の数ほどいて、ドクターもメインの偉い方以外にも学生や若手や、もう凄まじい人数で、毎日違うドクターがぞろぞろやって来る、看護婦さんもシフトがどんどん変わって、入院期間中同じ人に当たることがほとんどないほど。とにかく覚えきれない人数が私の治療に関わっていて、どこもかしこも患者だらけ、にも関わらず!

治療に関する情報、私の状態、どんな問題が今あるか、何が心配で不調か、などなど、本当に些細な情報まで、すべてが完璧に引き継がれているんです。

どんな些細なことかと言うと、例えば「小指の先が痒い」とか(笑)。私が支給されている水をあまり飲んでないようだ(実際は持ってきてもらったボトルで飲んでいた)なんてことも、後からチェックされていたことに気づいて驚きました。

一度として「ここが痛いんだけど」「ここがこうで心配なんだけど」と軽く伝えたことも漏れたことがなく、誰かに伝えれば、その後しばらくしてドクターだったり看護婦さんだったり理学療法士だったり、誰かしらその専門の人が来て、「ここがこうで、こうなんだって?」とチェックして適切に処置してくれます。

時には、一人ドクターが来た後に、また別のドクターが来て同じことを聞いてくれたりするほど。ダブりはあっても漏れはない。この伝達網の間違いなさには感動しました。

私は入院中に病棟を3回、病室を5回、真夜中に突然に移動したりしたけれども、病棟が変わって、私の荷物はおいて行かれて数日後に取り戻したりしても、とにかく私の状態についての伝達網は完璧でした。

「患者へのサービス的な発想を一切切り捨てて、治療に最重要なことだけに徹底的に専念する」。それが公立病院の在り方なのかなー、などと感じさせられました。

この情報の共有方法、どんなやり方をしているのか、ジャーナリスト的興味が湧きます。ちなみに一部門(ものすごい大きい)の手術のスケジュールは、1冊のノートを共有して管理されていました。コンピューターではないんですねー。初診前に紹介元からのレポートはファックスで送れと言われたし、アナログで培った確実な情報伝達というのが完成されているようです(メールだとまぎれてしまったり消えてしまったりで見逃すことがあるけれども、ファックスで紙が届いていると、見逃さない/無くならない、みたいなアナログならではの安心感、ありますね)。

集中治療室の専属看護婦さん&圧倒的な騒音

特に集中治療室にいた時には、患者一人に看護婦さん一人が専属になるわけですが、数時間おきにシフトが変わって交替します。このときに毎回30分近くかけて延々と私についての情報と今の状態を次の看護婦さんに口述で伝えているのが聞こえました。ここでも、思った以上にアナログな情報伝達がされていて、それがいちばん確実な方法と確信しているんだろうなーと、チューブ30本付けられたまま納得している元気な患者でした(笑)。

ちなみに入院する前に「香港の公立病院は大部屋で、とにかく患者がうるさいよ」と聞かされて戦戦恐恐としていたものの、私の場合は消化器系の病棟で弱っている高齢の患者さんが多かったせいか、患者さん自体はとても静かでした。そんな中、恐ろしいまでの騒音に呆然としたのが、集中治療室でのドクターと看護婦さんの深夜の伝達タイムだったのです。

なぜか毎晩11時頃から2時間ぐらい、その伝達タイムが始まるのです。一度に30人ぐらいの大人がほとんど絶叫しているような最大音量で延々と会話を続けているど真ん中に寝ている状態・・・・・・。後にも先にもあんな騒音の中に身を置いたことがありません。音楽でも聴いて、と言っても、そんな音をかき消すことは不可能で、また騒音が一つ増えるだけという感じ(ノイズキャンセリングのヘッドフォンを持ってくれば良かった!)。ちなみに家族に耳栓を持ってきてもらった途端に、一般病棟に移ることになったので、あったらどの程度緩和されたかは不明です。

しかし恐ろしいことに、そんなにうるさいのに、体が弱っているせいか、その中で気づいたら眠ってしまうんですね。でも睡眠学習というのか、しばらく頭の中にガンガンその騒音が残っているような状態が続いて、起きても頭の中でガンガン話し声が鳴り響く気がしました。しかし夜中3時頃になると、打って変わって物音一つしない集中治療室。看護婦さんもなぜかひそひそ声で話しかけてくる。

今思えば、ここでの専属看護婦さんは大変な贅沢でした。面白いことに、一人ずつ、得意技が違うみたいで、私が手術跡の痛みを感じにくい体勢ですっぽりハマるように、ベッドの上に枕や布団を組み合わせて3D寝床を作ってくれる人、身繕いを丁寧にしてくれて髪の毛を梳かしたり結わいたりして小ぎれいにしてくれる人、血液検査や点滴などのために、腕に多数付けられていた栓が乱れていたのを整然とキレイに完璧に付け治してくれる人・・・・・・。看護婦さんの得意技、すごいです(その代わり、他の人の得意技を頼もうと思っても、さらっと無視されて今ひとつやってもらえません、笑)。

集中治療室にいたときの写真、お恥ずかしいのでミニサイズで。あちこちチューブだらけでした。

最初は慣れませんでしたが、途中からは、甘え上手な愛玩動物系患者になって、若い看護婦さんたちに大変可愛がっていただきました(笑、ちゃっかり末っ子気質というやつですね)。しかし本当に、皆さん忙しくよく働いて、真剣に面倒を見て下さるので、有り難い限りでした。

次回はこの伝達の素晴らしさの裏にある、説明のなさという特徴に迫ります!

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