フィガロ10月号の『超級リュクス香港』のために取材で訪れて以来、個人的にぜひうかがいたかったこの店に、昨日ついに再訪がかないました。
「上海のフランス居留区」を意味する名前からも想像できる通り、上海料理をベースに、フレンチのプレゼンテーションで、イタリアンや和食などの食材も織り交ぜた、個性的な料理を出す法租界。今年の4月頃オープンして以来評判で、最低でも1ヶ月前には予約しないと入れません。夜のみのオープンで、今回はキャンセル待ちで粘って、直前にテーブルをゲットしました。
この店のコンセプトの1つが「驚き」。何しろまず、蘭桂坊のど真ん中にありながら、香港にいくら長く住む人でも簡単には見つけられないのです。屋台のおじちゃんや近くのバーのお兄さんに聞きながらやっと建物の入り口にたどり着いてからも、
「確かに住所はここだけど・・・・・・」
「まさか、ここを入るの?」
「看板もないし、なんだこの汚い階段は。怪しいなあ、大丈夫かしら」
と不安が募る一方。
最初に行った時は、「記事に紹介する候補として」下見だったので、「インテリア写真はきれいだったけど、こんなところ紹介して大丈夫なのだろうか」とますます心配になりました。
しかし心配もそこまで。
看板も何もないドアを開けた途端に「うわあ」と驚きと喜びが広がります。白を基調にした洗練されたモダンなインテリアは、センスのいい友人の家に遊びに来たような感覚。
「ハーイ、美也子、久しぶり!」
と大歓迎して下さったシェフのポールさんは、つい最近まで、元広告会社の敏腕クリエイティブ・ディレクターだった方。上海出身でレストランを経営していたお父様の影響を受け、小さい頃から料理が好きだったというポールさん。徐々に料理への情熱が高まり、会社に入ってからも、普段の休日はオリジナルメニューの開発にいそしみ、数週間の年休を使ってフランスのコルドンブルーやイタリアに料理修業に行くという生活を何年も送っていたとか。
しかしクリエイティブ・ディレクターとして大活躍していたこともあり、「いつかは自分の店を」という淡い夢のままで終わるかも知れなかった想いが実現したきっかけは、思わぬ病にかかったこと。
「人生、いつまで続くか分からない、今やらないといつかはないかもしれない」
そんな気持ちにかられて、ついに退社を決意。以前からレストラン経営の話をしていた大学時代の友人であり、投資銀行でバリバリに稼いでいたクリスさんなどと一緒に、この「法租界」をオープンするに至ったのだとか。
そんな仲間たちが思い描いていた理想そのものの、この立地を見つけたのは大変ラッキーでした。もともとは近くのバーの倉庫として使われていたというスペースを改造。上海やヨーロッパで集めてきたアンティーク家具やデコレーションを駆使した素敵空間が誕生しました。
「道に迷ったり、心配になったりしてから、ここを発見して驚き喜ぶ。そんな『冒険』が法租界のコンセプトなんだ」とクリスさん。
その驚きと楽しみのコンセプトは、もちろんお料理にも貫かれています。ではでは、次の回ではお待ちかねのお料理を紹介しましょう~♪ →その2へつづく