2019年前半、香港の食いしん坊な皆さんが待ちに待った話題です。
そう、香港を代表するレストランとして名高い「Amber」が生まれ変わって帰ってきたのです。
私は、過去には何度もシェフのリチャード・エッケバスさんのインタビューにうかがったのに加えて、こんなイベントでも仕事する機会をいただいて、とてもご縁がある店なのです。
最初はバリバリのフランス料理店として始まったAmberも、取材を重ねるうちに、日本食材との出会いや、健康志向と環境意識の高まりから野菜への比重が高まって行ったり、アジアならではの食材の味を最大限に引き出した料理へと、どんどん進化していました。ここ2年ぐらいは「もううちは特にフランス料理だとは思わなくなってきた」と呟いていたリチャードさん。
超人気店が何ヶ月も店を閉めての再オープン。そしてSNS時代ならではだなーと思ったのが、以前に使っていた食器から天井から下がっていた大量の棒まで、すべてガレージセールに出されていたんですよね。行きたかったけれども予定が合わず、一瞬で売り切れたそうです(これアンバーのセールで買ったんだと、素敵なコーヒーカップを某店で見せられました、笑)。そしてリチャードさんを含めたシェフたちは、世界各国でポップアップをするツアーに行きつつも、シェフ人生でほとんど初めて、家族とクリスマス休暇を過ごすことが出来たのだそうです。
もちろん、それと同時進行で、香港のキッチンスタジオを使って、新メニューの開発と実験に励んでいたそうです。
そんなわけで、先月になりますが、新生Amberに行ってきました~。以前AmberのバーになっていたエリアがSOMMという別レストラン(元Amberのシェフによるビストロ)になっていて、そちらがまたとても評判がいいです。
インテリアデザインは前回と同じくアダム・ティハニーさん。
テーブルクロスはなしで、ぐっと軽やかにカジュアルになりました。窓際は二人用のテーブルがずらり。スタッフの制服は、トップスとボトムス、アクセサリーにソックスなど、それぞれのアイテムが複数あり、その日の気分で組み合わせてねということになっているのだとか。天井のオブジェが、かすかに以前のオーロラ的オブジェを思い出させてくれます。
いよいよリチャードさんがやって来ました!テーブルサイドで、自家製豆腐にさまざまなフルーツトマト、塩ゆでした桜の花びら、アーモンドオイルを加えた前菜です。
瑞々しくフレッシュな味わい!
目にも鮮やかな料理は、昆布締めした鰺とキュウリ、セルタスなどをあしらった爽やかな1品。この日は青リンゴをたっぷり使っていたので、アレルギーがある私は、別料理をいただきました。
波の上に佇むようなこの1品は、日頃食べているものよりずっと濃厚な味わいの沖縄産コーンを主役にしています。コールドプレスしたコーンジュース、海水のエスプーマに、キャビア、そして酢橘が振りかけられていて、小さな皿の中に自然が持つ甘味、塩味、酸味、うま味が凝縮されていました。「これはかつてのウニやフォアグラロリポップなどのように、Amberの新名物料理として殿堂入りするかもね」と同席したジャーナリストの人たちと語り合っておりました。
そして次のコースは、今回のAmber大変身の目玉の1つ。キッチンの中に案内されて、キッチンの様子を眺めながら、そこに設置されたカウンターでいただくのです。私は仕事で結構よくレストランのキッチンにお邪魔する機会がありますが、なかなか普通に食事に来ていたら、キッチン潜入体験することがないですよね。これはとても楽しいアイデアだと思います!
キッチン内のカウンターでも、リチャードさんがこうして仕上げをしてくれます。背が高すぎてフレームに収まりきらないのが唯一の問題点、笑。
次の料理はこの麗しいキャベツを使っています。
カトラリーは茶餐廳スタイルでカウンターの中から自分で取り出します。この濃厚キャベツ料理、アップで撮った写真がなぜかなくてうまく見せられないのですが、キャベツとマッシュルームをミルフィーユ状にしたベジタリアン。今回「乳製品不使用」をうたったので、フレンチなのに!とちょっとした論争になっていましたが、実際に食べてみると、食材として乳製品を使っていなくても、調理技術とアイデアでクリーミーさを味わえるものが加わっていたり、風味がすっきりしつつ、しっかりしているので、何かが足りていないという感覚はまったくなく。「何料理だからこれじゃなきゃ」という枠が外されていることを強く感じました。
見事な焼き具合の甘鯛! カリカリの皮が最高です。紫たまねぎのピクルス、紫蘇、ズッキーニ、オリーブなどが、甘鯛を引き立ててくれます。
素晴らしい食感に仕上がったラム! ソースの赤は肉汁、緑はミントオイルで、赤と緑が分離しつつ重なったプレゼンテーションが見事で味のコンビネーションも最高。サイドには、蕪のピューレと茹でたスライスが。ふんわりとした甘味がこれで加わりました。
いよいよデザート! Amberのデザート、私は大ファンです。ラズベリーを加えた酒粕のシートの下に隠れているのは、フランスのカマルグというエリアのワイルドライスをつかったデザート。ほどよくすっきりして美味です。
ビターチョコレートにMitchersのスモーキーバーボンを振りかけたデザート。極細のチョコレートがシャキシャキしていていることで、美味しさがまた倍増していました。
最後はマドレーヌとチェリー。
あれだけ成功しているレストランを全部作り替えて、思い切ったコンセプトで、信じる道を突き進むリチャードさん。どんなベテランで成功していても、チャレンジ精神を失わない攻めの姿勢、すごい!!と感動させられました。
ファインダイニングを究めたシェフとレストランが、食材の質や調理技術はさらに高めつつ、ビストロ的アプローチで、さらりと楽しませるというAmberのスタイル、まさに新潮流です。
ホテルのモダンラグジュアリーも、どんどん肩の力を抜いた自宅風になりつつあるし、Googleのオフィス的な発想が、レストランの世界にも行き渡ってきていますねー。
日本は平成じゃなくて令和になったように、変わっていく世の中を楽しめるのは幸せなことですね。次回は新Amberについてリチャードさんにじっくりインタビューしたいです。
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