3/27にマカオで華やかに催された「アジアのベストレストラン50」受賞式! 今回9軒ランクインした香港の中でも、昨年の47位から22位へと急上昇し、もっとも大きくランクを上げた「Highest Climber Award 2018」を受賞したのが、私の愛する大班楼。今までは、50位ぎりぎりにいて、出たり入ったりしていたけれども、今回ですっかり定着していきそうです。
やや地味な存在ながら、熱狂的なファンが多くて、有名シェフに「好きなレストランは?」と聞くと、こちらの名前を挙げる人が多数、といういぶし銀な名店でした!
今回の受賞式で初めてオーナーのダニーさんに挨拶ができて、今度来るときは、僕が面白いメニュー作るから、必ず連絡してね♪と言ってくださいました、感激。(詰めが甘いので、記念写真を撮り忘れました、涙)。
受賞式の後、壇上で記念写真を撮っているダニーさん(いちばん左、ダ、ダンディです)と、こちらも同じく昨年から25位ランクを上げて18位となり、「Highest Climber Award」を同時受賞して喜びを分かち合う、台湾MUMEのリッチーさん、ロンさん、カイさん。
今回ご紹介するのは、去年のフィガロ「24時間、香港中毒」特集の打ち上げを兼ねて、2月にご一緒したランチでした。
この日、私たちのメニューを手配してくれたのが、香港のグルメ王子、アイザック君。彼はとても顔が広いフードジャーナリストで、特集のときには、天香樓のオーナーさんを紹介してくれて、取材にも付き合ってくれた恩人なのです。
今日は裏メニューもいろいろあるよ、とのことでとても楽しみでした。
最初にいただいたのは、シャリっとした食感とほんのり柔らかい甘酸っぱさが癖になる新生姜の甘酢漬け。大班樓の自家農園で栽培した新生姜を真夏の旬に収穫。じっくり漬け込まれた深みがあり、食べるほどに口がさっぱりします。単なるサイドディッシュを超えた、前菜の一つというのに納得の行く存在感。甘酢ものに目のない私は、つい勢い良くいただいてしまいました!
この頃、ちょうど旧正月間近だったので、縁起のいい鮑を何度もいただきました。こちらはオーストラリアの冷たい海で育った天然の青邊鮑(グリーンリップ鮑)の燻製。輪になったひだの部分が美しい緑色をしているため、緑の唇=グリーンリップと呼ばれているようです。燻製によって香しさと歯ごたえが加わっていて、一口ずつじっくり楽しめました。
前菜3品目ながら、この日の主役級のインパクトを残した一品がこちら! 「何々? バオ?」と思わずざわつくテーブル(笑)。大班楼で初めて見た料理です。
その名も山東焼羊肉来胡蝶包。そう、右側がラム、中央が包、左側が薬味というにはボリュームのある野菜どっさり。
ミントの葉、甘酢生姜、カラメライズしたタマネギ、キュウリ、ディルというこの組み合わせを聞いただけで、ふむふむ!とワクワクして来ませんか? しかもこれらは大班楼の自家農園で収穫したフレッシュなものばかり。しみじみ自分の日頃の雑さを反省させられる、繊細に切り揃えられたキュウリの美しさがまるで翡翠のようです。
いつも気さくで面倒見のいい店員さんたち。包を半分から広げると、蝶が羽根を広げたようになるのですね。「胡蝶包」という優雅な名はここから来ていることが分かります。ラムを手際よく載せてくれました。
はい、どうぞ、と店員さんが胡蝶包を渡したのはアマンダ。「24時間、香港中毒」でたくさん写真を撮ってくれた、香港の売れっ子カメラマン。彼女がまた透明感のある爽やかな人なので、お店のコンセプトにもぴったりです(笑)。この日は写真は撮らずに「人が写真を撮っているって、こういう風に見えるものなのねー」と言いつつ、食べる方に専念していました。
あとは好みで薬味を載せます。いろいろな組み合わせを楽しめる・・・・・・と言いながら、やはりまずは全部をどさっと入れてみました(笑)。最後にソースをかけて。
さあ、いよいよ口に入れると。うううう(絶句)。こ、こ、これは。強烈に味覚のあちこちを同時に刺激される・・・・・・参りました!
いつも大班楼のことを考えると「清らか」と言う言葉が浮かびます。ミントやディルが持つ、それぞれ個性が強い爽快感に、キュウリの極細切りが生み出す瑞々しさ、甘酢生姜の優しくも鼻の奥にも響いてくるような風味、しなしなになるまで完璧にカラメライズされたタマネギならではの香ばしい甘味。
そして主人公のラムの山東焼きが!! 細く切ってあるのに、外側が薄らカリッとしつつ、ジューシーな肉の味もしっかり残り、いや何でしょう、この絶妙なる食感と美味しさは???(←取り乱している、笑)。
アイザック君に「山東焼って具体的に何をしてこんな食感になるの?」と聞くと、「これは蒸し煮にしてから揚げてるんだ。食材によってはマリネしてから蒸して、そして揚げたりもする」との答えがすらすらと。さすがグルメ王子です。
さらに極めつけに、この包自体が、今まで食べたことのないような、ふんわりと軽くて優しい食感とほんのり素朴な甘味もある、堪らない美味しさ。
すべてごく普通の材料と言えば普通の材料を組み合わせているのに、思わず瞳孔が開いてしまうような斬新な、でもしっかりと土台のある美味しさが生まれるのは、やはり一つ一つの食材が厳選されていて、丁寧に手間を惜しまず調理されて、センス良くバランス良く組み合わされているからなのでしょう。さすがです、チェアマン!
興奮冷めやらぬまま、いよいよメインの時間がやって来ました!
メイン一品目は、え?お粥? 違うんです、これはお米のスープなのです。粒がまったく残っていない、完全なるスープの形態にまで昇華させた(何かが私に憑依して来ました、笑)魚とお米のスープ。これに、海老の白い身の色を残したまま完璧に火を通し、花のような形の完成形にするという、広東料理の高度なテクニックを駆使した「蝦球」と、そしてカリッと揚げてあって、そのまま食べられる香ばしい海老の頭が具になっています。この頭が、まるでお粥のときの油條のような役割を果たし、風味をお粥に加えながら、カリカリがお粥を吸い込んでしなっとし始め・・・・・・。これも今ではとても珍しい、昔ながらの広東料理なのだそうです。上品でお腹に優しくって、滋養が体に染みこんでいくのが分かります。これもまた癖になる料理です!
などと他の料理にうつつを抜かしているところに、やって来ました、私の永遠の恋人(笑)、花蟹の紹興酒とチキンオイル蒸し、腸粉添え!!! 大班楼の名物料理にして、私を含めて「香港でいちばん好きな料理」と挙げるフーディ多数のこの一品(アンバーのリチャード・エッケバスさんも同志です)。
何回食べても感動が薄れない究極の組み合わせ。あっさりしつつも味わいのある花蟹の風味が溶け込んだビンテージの紹興酒と濃厚でリッチなチキンオイル。この極上のソースが白さをきれいに保った舌触りの滑らかな腸粉に吸い込まれているのです。点心でも腸粉ラバーな私にはもう。これはもう。
やはり大スターの登場ですから、盛大にお迎えしないとということで記念写真!左からアイザック王子、私、香港大好きフィガロエディターの秋元さん、カメラマンのアマンダです。どれだけ嬉しそうにしたら気が済むのでしょう(笑)。
名物店員のArtaさんが、手際よく取り分けてくれます。下手したら、蟹本体より、この腸粉が好きかもしれません。上海料理で餅に蟹料理のソースが染みこんだものがありますが、とてもヘビーなので、このあっさり広東スタイルが私の好み。
(しばし異次元に持って行かれる。お願い、私を探さないでください、笑)
はい、帰って来ましたYO! 恐ろしいことに、もう二度と自分でメニューは選ばないぞ、と心に誓うほどの素晴らしい料理の連続が、まだまだこの後も情け容赦なく続いたのです。
またしても衝撃を受ける美味しさがいきなりやって来ました。一見、あちこちの海鮮料理屋によくあるマテ貝の蒸し煮のように見せかけて。食べてみると思わぬ影の主役がいるのです。その正体は・・・・・・なんと20年熟成させた乾燥レモン。
陳皮というのはマンダリンオレンジを乾燥して熟成したものなので、あれのレモン版、ということで、またひと味違う爽やかさと渋さが融合した深みが充満しているのです。何という意外性と相性の良さ。
ここでやっと、興奮を抑えるワンクッションになる、でも間違いのない有り難さの豆苗と湯葉の魚スープ煮浸しが登場しました。シャキシャキの豆苗、柔らかな湯葉、スープが染みこんだ油條に銀杏。シンプルだけれども最高の組み合わせ。
ああ、そしてフィニッシュは、最近友だちの投稿で良く見かけてとっても食べたかった蟹肉たっぷりのおこわ!!桜海老も入って風味が豊かで、もうこれは。余裕の美味しさです。昔、天外天にあった蟹おこわラブだったものの、今はシェフが変わってメニューになくなってしまったので、私の中の香港蟹おこわ後継者が現れました。
心を落ち着かせる優しいデザート。杏仁茶、ナツメ、山査子のプディング。
美味しいものに満たされた幸せと興奮に包まれて、楽しいおしゃべりも弾んで、この日のランチは終了!また再会を誓い合った小春日和の昼下がり。
今日も美味しい料理をありがとう、チェアマン! ずっとずっと愛しているよ、チェアマン!!