香港に来て食の記事を書くようになってから、世界中から香港にやってくるゲストシェフに会う機会ができ、あちこちに行ってみたいレストランが出来ました。
ただいまその筆頭格なのが、スペインのビルバオ・グッゲンハイム美術館にあるレストラン、nerua。今年はワールドトップ50レストランの56位。来年のワールドトップ50がこのビルバオで開催されることになったそうで、ますます注目を浴びるのではないでしょうか!
さて、このneruaのシェフ、ホセアンさんが香港にやって来たのは、佐藤秀明シェフ率いるta vieとのコラボディナーのため。
ラッキーなことに、このイベントのメディア試食ランチに呼んでいただきました。
そして、それなりにいろいろ食べてきていますから、そう簡単にびっくりしなくなっているはずなのに、このランチには良い意味でびっくりしっぱなしだったのです。
さて、今回のコラボのきっかけは、もともと佐藤さんが10年近く前に、neruaを訪ねて、その料理に魅せられていたこと。そして昨年タイで、世界の有名シェフを集めたイベントにホセアンさんと佐藤さんの両方が参加していて、再びホセアンさんの料理を食べる機会があり、やっぱりすごい、と感服したという佐藤さんがホセアンさんと話しているうちに、じゃあぜひコラボしようと話がまとまったのだとか。
「普通は、どちらかというとシーフードや野菜を扱うことが多いのですが、今回、ホセアンから送られてきたメニューを見たら、シーフードや野菜のすっきりした料理がほとんどだったので、僕の方はバランスをとって、しっかりした肉料理を多めに入れてみました」と佐藤さん。
さあ、それではさっそく、その日にいただいた料理をご紹介します。
5種類のトマトの冷製・・・・・・と言えば簡単ですが。neruaには15万㎡を超える広さの自家農園があって、すべてそこで採れた種類と色の違うフルーツトマトを使い、中にはそれぞれ、ローズマリー、ミントなど、異なるピューレが充填されていて、食べるとパッと口の中で弾けます。
「これは何の味?」「どうやってこれ入れたの?」などなど、テーブルを一緒に囲んだ4人であーでもない、こうでもない・・・・・・。ふむ、いきなり楽しい滑り出しです。トマトが入っているクリアスープも絶品で、たちまち飲み干しました。
佐藤さんは、ホセアンさんの料理の魅力を「潔さ。大胆さ」と語ります。何が潔くて大胆かというと、そのミニマルさ。ついエディブルフラワーを飾っちゃったりしたくなりそうなのに、このシンプルさは。そして深みと奥行きのある味と、それを語り合いたくなる楽しさ。
そうです、クリアスープに浸されたほうれん草。これが少しぬるりとしてワカメのような食感になっていて、びっくりするほど美味しいんです。そしてこの辺から「あれ? この感じ、この風味・・・・・・。このスープはまるで広東料理の上湯っぽい」と感じ始めていました。ほうれん草の下にはアーモンドのブラマンジェのようなものがあって。はい。とてつもなく広東料理っぽいです!!
と、同席の香港人のフードジャーナリストさんたちに言ったら、確かに! よく気がついたね、10年香港にいるだけのことはある、確かにこれは、クコの葉を使った伝統料理にすごくよく似ている、とたいそう褒められて気をよくしました(笑)。
テーブルに届いて、おおっとどよめいたのが、このランゴスチンと紫のソース。なんと18KGもの紫キャベツだけで、ほとんど水も使わず、じっくり煮出したソースなのです。ランゴスチンはまたほどよい感じの火の通り方で、甘味があります。
そしてこの辺でみんなで気付いたこと。料理が皆、熱くもなく冷たくもなく、まさに人肌のような微妙な温度なんです。これって珍しい!
佐藤さんいわく、ホセアンさんには温度へのこだわりが人一倍あるそうで、「キッチンであれだけ、温度、温度ってずっと言っているのは、龍吟の山本さんぐらい」だとか。鮨のシャリの温度を思わせるようなこの感じ。ものすごく個性的です。
そしてこれ。ちゃんと中身を掘り出して撮らなかったので、何だかよく分からなくてごめんなさい。
これもまた面白い1品で、マカオでもよく食べたバカリャオ(鱈の塩漬け)の顎の辺りのゼラチン質の部分とオリーブオイルを合わせて、ゆっくり揺すると自然に乳化するという、バスク地方のピルピルソースなのです。
これも何だか魚の浮き袋のスープを飲んでいるような、超高級広東料理的味わい。
ホセアンさんに「みんなで、すごく広東料理っぽさがあるって言ってたんですよ」と伝えたら、とてもびっくりされていました。だいたい広東料理を食べたことがないそうです。世界の反対側の、まったく異なる国で、自然と似た方向性が生まれているって面白いですねー。
前に食べたけれどブログにし損なっていたHoward’s Gourmetの料理と共通点を感じます。
さあこの辺で、日本&香港代表の佐藤さんの料理を! こちらは豚足で作ったソースがたっぷり染みこんだ牡蛎。肉からのタンパク質とシーフードのミネラル質が不思議なほどマッチするのです。
これは海と山が両方近いために、両方からの幸を一緒に食べることが多く、またゼラチン質を偏愛するというバスク地方の食へのオマージュなのだそう。
甘くて柔らかい新タマネギの中には牛の頬肉が入って、濃厚な肉料理! クラシックフレンチ。
佐藤さんの鳩の炭火焼き。低温でじっくり火をいれてある鳩の美味しさ! 本当に鳩って美味しいんだと香港に来てから食べる機会が増えて、身にしみています。ふきのとうやこごみなどの苦味のある山菜と、インカ芋の甘み、そして、鳩のリダクションソースには胡麻油が利かせてあって、この味は。なんとレバ刺しのソースを意識したんです、と佐藤さん。お見事です。
不思議なほどに東洋的な哲学を感じさせるホセアンさんの料理をみごとにサポートしつつ、しっかりと満足感を覚えさせてくれる素敵な料理でした。
あーでもない、こーでもない、なんだこれは、美味しすぎる・・・・・・と賑やかなランチもいよいよデザートタイムに。
これがまた。ホセアンさんのデザートは。びっくりさせられました。
フェヌグリークという地中海地方で採れるハーブで、カレーのスパイスにも使われる植物をアイスクリームにして、ホイップしたアボガドとカスタードクリームのミックスに、オリーブとコーヒーのパウダーを振りかけたというこの1品。どこからこういう発想が?という美味しさでした。
一緒にいただいたのは、コーヒー通の佐藤さんが、台湾にいる国際チャンピオンのロースターから購入しているという、インドネシアのマンデリンコーヒー。すっきりと幸せな味。
大活躍のシェフたち。中央がホセアンさん、右が佐藤さん、左がホセアンさんをサポートして、英語への通訳をしてくださったNeruaのイナキさん。
佐藤さんにとって、ホセアンさんの料理は「まさに勇敢そのもの。これだけシンプルに仕上げるのには、大変な勇気が必要で、その料理でお客様を満足させ続けているというのは、すごいことです」。
同席したのは人気フードライターのユーさん、デビーさん、香港タトラーのウィルソンさん。ああ、私の胃はどこまで甘やかされるのでしょうか・・・・・・幸せ者です <3
いつもいろいろな旅に連れて行かれるta vieでの食事。この日の旅は、とてつもなく静かなのにあっと驚かされるジェットコースターに乗せられて運ばれたような、狐につままれたような、不思議で癖になるような美味しい旅になりました。