香港にその傾向が強いのか、世界中でそうなのか、分からないのですが、日々、いろいろな食を取材していて和食の影響を感じない日はない、と言っていいほど。そんなわけで、いろいろと和食のことを聞かれることが多い昨今。でも海外生活も数えてみると合計20年近くなり、私にとって和食というと家で作る簡単な家庭料理が中心です。
改めて、東京にいた頃、会社の帰りに友達や彼氏としょっちゅう行った店や、近所のお気に入りの店ってどんなだったかな~という視点で考えると、いわゆる創作居酒屋系というのでしょうか。気軽でいい雰囲気、シェフが熱心でしっかり美味しくて自由な料理、フレンチやらイタリアンやらチャイニーズやら、ちょっと他の料理の影響が入っているけどバランスが良くて、和でしっかりまとめられていて、はみ出しすぎない・・・・・・思い返すとそんな感じだった気がします。
そんなお気に入りの店を思い出させてくれたのが、西営盤にオープンしたばかりのOkra。
古いローカル店が並ぶエリアにひっそりと店を構えています。西営盤で降りてもこちらの方向に来たのはそういえば初めて!!
カウンターと小さなテーブル席のシンプルな造り。そして壁一面には!!鬼才・佐伯俊男による怪談や春画のようなおどろおどろしかったりセクシーだったりするものたちが奔放に描かれた作品が!! 彼の絵は、昔、寺山修司さんの本をよく読んでいたとき、装丁に使われていたような気がします。
とにかく店の個性を強烈に輝かせています。実はオーナーシェフと佐伯氏がお友達、ということで実現したそうです!!日本ではなかなかこうやって見る機会のない佐伯氏の作品をこんな風に西営盤で堪能できるとは。
そのオーナーシェフとは・・・・・・ニュー・オリンズ出身のマックス・レビ―さん。私が食べに行ったときは黙々と料理に打ち込んでいて、「日本で修業したんですか」と聞いても「まあ千葉とかあちこち行ったよ」ぐらいにさらり・・・・・・だったんですけど。
経歴を見たらまあ、日本で鰻の養殖場やらバイオダイナミックの天然塩農家やら、アラスカの鮭養殖場やらで働いたりしているそうではないですか!
その後、NYの名店、Sushi Yasudaで日本人以外では初の板前になり。その後は北京に渡り、私の大好きなアッパーハウスの姉妹ホテル、オポジットハウスなどに勤めた後、自らのレストランOkraを2013年にオープン!
そしてこの度香港でOkraをオープンさせたということなのです。
試食にうかがった時は、そんな前提知識もまったくなく「あーシェフ、日本人じゃないんだ」ぐらいしか最初は知らなかったものの、そういうことだったのね、と後から聞いて納得するような料理の数数。やっぱり料理にはシェフの生きてきた経験が集約されているんだなあと改めて感じさせられました。予告編を見ないで映画を見るのが好きな私としては、この順番、楽しめました!
などと前置きはそのくらいにして・・・・・・とにかく「Okraって和の要素があって、話題の店らしい」ぐらいの気持ちだった私はすっかり嬉しい驚きの連続に。
最初に食べたのがこれ。ウニとアンチョビが主役のこの一品、そして和えられているゼリーは、香港の地元の海鮮市場で買ったガルーパの燻製と、昆布を使った出汁のゼリーなのです。凝っている!
マックスさんが目の前でせっせと作っていた豆腐がこんなサラダに。葱の花がいいですねー。自家製ソースは、豆鼓、うずらの皮、揚げたオクラとニンニクを使って作ったとか! そして珍しい仏手柑の塩漬け、紫蘇も入っていると聞くだけで美味しそうでしょ。食べるとまたこれが!!素晴らしい味わいでした。既に今夜は大満足できることが確実です!
そして日本酒もOkraオリジナルの面白いものがいろいろ! これは実は、北京でお友達になったという有名映画監督のツイ・ハーク(徐克)さんと、Okraと、福岡の酒造若竹屋のコラボという限定酒なのです。
北京のOkraでは、毎年、若竹屋へのツアーを企画していて、Okraの常連になってからすっかり日本酒ファンになった徐監督、そのツアーにも参加して、もう若竹屋のお酒と福岡の虜になってしまったそう。
純米吟醸「ザ・モンキ-」と名付けられたこのお酒は、徐監督のアイデアで干支の動物を名前にしたのだそう。そしてアートワークは、香港人ストリートアーティストのカラ・テさん! 真にオリジナルな手作り感満載です。
お刺身クオリティのスペイン産赤海老を使ったお味噌汁風スープ!!こちらは燻製した仏手柑で出汁を取っているんだそうです。
おしゃべりに夢中になっていたら、「ほどよいうちに食べてね」とシェフの突っ込みが。はい!了解です!
てきぱき、きりりと、どんどん調理を進めるマックスさん。何でも自家製が多くて、下ごしらえも丁寧にしていることが、見ているだけで分かります。
うわ、これはもう美味しくて目眩でした、ぶりの若魚、ハマチの一歩手前のやず。ニンニクオイルとポン酢をきかせたソースがかかっていて、添えられているのは、なんと刻んだ湯葉なのです。この刻んだ湯葉をあちこちに上手に使っていて、初めてこういう使い方を見た私は、日本のどこかの地方でやるやり方なのかなーとマックスさんに聞いてみたところ。
北京に行ってから、中国の北方料理でこういう使い方がされているのを見て、取り入れてみたとのこと!なるほど! もちろん湯葉も自家製です。
そしてこのフライドチキン。そんじょそこらのフライドチキンではありません。先日、香港の人気レストラン10軒が集まって、フライドチキンコンテストというのが行われました。そのメディアによる選考会で、並み居る有名店を抑えてトップに躍り出たのが、このOkraのフライドチキン! 竜田揚げっぽいのですが、砂糖が入っていないのだとか。鶏肉も柔らかくて肉の味がよい!そして添えられているのは、オクラや蓮根の酢の物。蓮根にはビーツで色が付けてある模様。下には刻んだ湯葉がたっぷりまた敷かれています! 納得のチャンピオン!
デザートも充実! 小豆と抹茶のクッキーをベースにしています。
こちらは、ナスみたいに見える焼きバナナ。醤油を凝縮させた茶色い塩がかかっています。
すぐに満席になっていて、大忙しのマックスさん。手際がよいので、見ていて気持ちがいいです。オープンキッチンって言うけど、そういえば日本では板前さんの調理姿が見えるのって当たり前といえば当たり前でしたね。
予告編を見ないで見た映画、最高に楽しめました。そして後からシェフにいろいろうかがうと、まあ一つ一つの料理に大変な手間とセンスのいいアイデアが詰まっていること!
そして食材、お酒、インテリアなど、すべての要素が、「マーケティングリサーチして、最近こういうの流行ってるからやりました」という空虚なものではなくて、長年築いてきた信頼関係や経験をベースに1つ1つ紡いで、こういう形になっているという、血が通った温かみに溢れていました。
あちこちの国のいろいろな人や文化がいい意味で絡み合っている、香港らしい店なのです。
住んでみたい街ナンバーワン(でも家賃が高すぎるw)の西営盤。しっかりディナーも食べられますし、ふらっと何品か頼んで美味しいお酒を飲んでという使い方もできて、近所だったら絶対行きつけの一軒にしたい!!
お店から駅への帰り道もしみじみとしていていいですね。席が少ないので、早めにご予約(Okra 852-2806-1038)を。